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2. 進化を続ける無線通信
 
(1) まずは糸電話から
無線機器を考える前に糸電話を考えてみましょう。

通常の会話では糸の代わりに空気の振動を送話側は声帯で起こし、受話側は耳の鼓膜にその信号を受けて生体内電気信号に変えて脳の音声処理から言語処理に続けています。そしてあまり会話者が離れていると大きな声を出しても伝わりません。それは空気の抵抗があるからです。(空気で振動が減衰します。)

 糸電話の場合、送信機と受信機は筒に薄い膜のようなものを貼り付け、その膜の中心に糸を止めます。これを一本の糸の両端に取り付けます。

 

 

これで筒の一方は送信者(話すほう)で他方は受信者(聞くほう)となります。
糸をぴんと張って筒に対して話すと、その振動が聞くほうの筒の膜に振動として届きます。これを話すほうと聞くほうを交代して会話が成立いたします。
この場合は、
1)一対一の会話(通話)であること
2)送話と受話が代わるがわるであること
3)糸のたるみがあるとうまく膜の振動がつたわらないこと。エネルギーの減衰によるものです。

これが道具を使った通話の基本形です。

これに対して、糸がない場合、つまり無線機ならばどうするかが無線通信となるわけです。糸の代わりに電磁波を使います。いわゆる電波です。
そして、電磁波に音を乗せるわけですが、このために変調という技術を使います。 これは送りたい情報を運んでくれる搬送波(sin波。つまり正弦曲線です。)に乗せる技術です。
変調は何種類もありますが、目的は搬送波に乗せる事ですの、その役割を果たすものだという理解でここでは大丈夫です。
変調を送信側でしたら元の信号(音声)を変調されたsin波(搬送波)から復調という作業で取り出します。
現代の無線機器の変調はこの基本に比べたら非常に複雑ですが、基本はここで述べたことにほかなりません。

つまり、筒そのもの(携帯端末のハードウェア)、糸(電磁波)、糸の振動(変調された信号)、膜(スピーカーとマイク)、音の発生そのもの(電源)、の関係といえるでしょう。
無線機と決定的に違うのはアンテナが無いことです。 アンテナは信号の同調回路の出入り口なので、膜と膜に取り付けた糸の部分ということもできます。

 

(2) 無線機の基本技術
1)無線機の基本は同じ
 どんな無線機でも基本技術は同じであり、送りたい情報(声やデータ)を搬送波という正弦波に情報を意味するデータを電波にのせる処理をして送受信しております。 送りたい情報はベースバンド信号と呼ばれ、これは携帯電話システムでも他の無線でもまたは、音楽や放送でも、通信にかかわる技術は同じ意味を成します。(元の信号はアナログでもデジタルでもかまいません。)
 そして無線機器間で何が違うかと申しますと、信号の処理の仕方と電波の有効利用方法が各無線機システムで異なっている訳です。そして、基本的に電波の利用の仕方は新しいほど効率化しています。
 そしてそのためには、変調方法、アクセス方法といった技術項目の違いが、いわゆる無線機の違いとなります。(あくまでも技術的な違いからの区分)

 

2)電波の発生
さらに基本的な内容を考えますと、次のようになります。 それは、電気回路あるところ必ず電波あり、です。 それは以下の図に表れるように、起電があると電波が発生するのが電波であるからです。
 電界とは、電荷(電気を帯びたもの)が作る力の場であり、 同様に磁界とは、磁力により作られる場です。

 電界と磁界には下記の図のように相互に関係があって、電界が動く(電荷が動く)とそれによって磁界が発生し、磁界が動く(磁石が動く)とそれによって電界が発生します。
電界の変化が磁界を生み、磁界が電界を生みます。これが連続しておきます。

3)周波数と波長
電波には同じ状態を繰り返します。 その繰り返しは単位時間(1秒)で何回あるかで表します。
たとえば2GHzならば、1秒間に20億回の振動をしています。

 

 

そして、波長はその周波数の逆数を言います。
ちなみに2GHzの周波数の波長は、

f = c /λ(c:光の速さ 毎秒メートル)
λ= c/f λ(m) = 2.99792458 x 10^8 (m/s)/2*10^9 Hz =0. 149896229m 
波長は約15cm。 
アンテナは論理的にλ/4が理想的だから、3.75cmとなります。

 

4)変調方法
 無線で送る元の信号はベースバンド信号であり、これは有線通信でも同じです。
もしこの信号をそのまま送ろうとすると(変調しないで)、莫大な周波数帯域が必要です。これもよって、資源の有効利用の為に有るわけです。
さてこの変調を行うわけですが、種類だけ述べるとアナログ変調のAM変調、FM変調、PM変調があります。 さらにデジタル変調というものがあり、ASK,FSK,PSK,QAMという変調方式があります。 
 多くの略語がありますが、現在運用されている機器はほとんどがデジタル無線であり、新しいものはQAMをベースとした変調方式を採用しています。

AM:Amplitude Modulation 振幅変調 
FM:Frequency Modulation 周波数変調 
PM:Phase modulation 位相変調 
ASK:Amplitude Shift Keying 振幅偏移変調
FSK:Frequency Shift Keying 周波数偏移変調
PSK:Phase Shift Keying 位相偏移変調
QAM:Quadrature Amplitude Modulation 直角位相振幅変調

(※ keying に「変調」と言う意味があります。)

デジタル信号の変調ですので、0か1かの信号を送っているのですが、何の周波数成分をとっているのかでずいぶん伝送効率が異なります。

複数の変調方式がありますが、ベースバンド信号(乗せたい信号)を搬送波(キャリア)にどのように乗せるかの違いです。
それぞれの変調については後述されます。

(4)搬送波と復調
搬送波は変調した無線信号を運ぶ電波で、元はサイン波です。 下記の図で、左側の円周上を等速度で動く点の位置を連続運動の軌跡とみるとわかりやすいでしょう。(例では、1秒間に4億回の同じ振動を行っています。)

 


(出典:サーキットデザイン社のウェッブサイト
<http://www.circuitdesign.jp/jp/technical/modulation/modulation_base.asp>より)

ベースバンド信号を変調して搬送波に乗せて相手に届けると、到着側では、受信した信号を復調という技術で元の信号を取り出します。
変調した逆の処理をしていると概要として考えてよいでしょう。

5)周波数スペクトル
変調はベースバンド信号を搬送波に”載せる”といいますが、実際は混合するわけであり、mixerという回路が必ずあります。その混合した波は歪波と言います。
そしてその周波数は特有の広がりを持ちます。その広がり方を周波数スペクトラムと言います。

ベースバンド信号は搬送波よりも低い周波数である必要があり、搬送波をf0(Hz)とすると、fsという帯域のベースバンド信号を混合した後の周波数はf0+fs, f0-fsとなります。 このf0+fs~f0-fsの周波数帯が変調波の帯域といえます。

周波数帯域の概念は、後に出るCDMAという方式で重要な概念にかかわりますので確認が必要です。

5)アクセス方式(マルチアクセス方式)
 一対一の通信では問題になりませんが、電波の有効利用方法として、一つの周波数(チャンネル)に複数の利用者の通信を乗せられないか、ということです。
 そしてその方法として、FDMA(Frequency Division Multiple access )とTDMA(Time Division Multiple Access )が当初開発され、その後にCDMA(Code Division Multiple Access )という方式が開発されました。
 FDMAは周波数分割というもので、周波数を細かく区切ってそれぞれに違う複数の利用者のデータを載せて送受信する方式です。
 TDMAとは同一周波数の電波の固定タイムスロットをそれぞれの無線局に割り当て、多元接続を行う無線通信技術です。
 最後のCDMAは軍事技術の転用で複雑ですが、符号分割多重アクセスというものです。 周波数を意図的に雑音電波で広げたものでスペクトル拡散方式です。スペクトルを意図的に広げることで、同一周波数で複数の通話が可能となるものでもともと軍用技術でした。

 なお、新しい無線機や携帯電話の3.9世代以降はOFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access )という技術を主として使っており、IEEE 802.11a/gやワイヤレスUSBも使っている技術ですが、いままでの技術も応用して使っています。

6)無線通信の基本的な課題
 無線通信として、通信する相手が遠くにいても見通しが利けば (障害物がなければ)、受信機の性能に依るとはいえ、少ない送信出力の電波でも届きます。
 しかし、現実として、戸外ならば地形の変化、山や森や植物もあるし、人工の建造物さらに雨や雪や雷と言った天候にも影響を受けますので、これらは全て無線通信にとっては障害物となります。さらに、マルチパスという反射波の問題とフェージング(無線局の移動や時間経過により、無線局での電波の受信レベルが変動する現象である。「衰調」(すいちょう)とも言う)、並びに雑音の影響は無線通信の宿命であり、このために、無線技術では、通信途中での誤り訂正、雑音(信号)の排除と言った技術も必ず採用されています。
携帯電話ではすくない周波数帯域で多くの利用者の同時利用をさせるという課題があります。
さらに、大容量データをより早く、遅延がなく、性格に届けるのも常に求められる技術項目です。

3) アナログ変調とデジタル変調
1)アナログ変調
無線機で何かの情報を送るためには、ある周波数に信号となる周波数を乗せれば良い訳で、乗せる信号がたとえば音声であったり、電子メールの内容であったりしても可能ですが、載せる信号をベースバンド信号と呼び、運ぶ周波数を搬送波といいます。 
搬送波にベースバンド信号を載せる(混合)することを変調といいます。 
変調しなくてもベースバンド信号そのものを運ぶこと(既出の糸電話がそうです)もできますが、無線で行うためには非常に広い周波数帯が必要であり現実的ではありません。
基準となるサイン波(サイン、コサイン、タンジェントのサインです。sin波)で同じ形を繰り返します。 
このサイン波と信号波が組み合わさって、歪波と呼ばれ、これが搬送波に乗せられます。

この変調には大きく分けてアナログ変調とデジタル変調があります。
変調技術として、はじめはアナログ変調が開発されました。ラジオでもおなじみのAMやFMといったものがそれです。
電波の成分の何の変化を使って信号をやりとりするかで変調の方式が決まります。

 

それらは、
電波(搬送波)の振幅を変調する振幅変調(Amplitude Modulation)、
周波数を変調する周波数変調(Frequency Modulation)
位相変調(Phase modulation)が代表的なアナログ変調方式です。

・各種アナログ変調

 

2)デジタル変調
一方0、1のデジタル信号で搬送波を変調する方式があり、それらはASK、FSK、PSK、MSKがあります。
それぞれ、振幅、周波数、位相、周波数変化を変調するもので、Amplitude Shift keying,、Frequency shift keying, Phase shift keying、Minimum Shift Keyingです。
QAMは、直角位相振幅変調(quadrature amplitude modulation )と呼ばれるもので振幅と位相の二つを変調するものです。

QAM以外はアナログ変調と同じように各成分が変調されるのですが、振幅で表せる数値、周波数で表されるまたは位相で表される数値の変化をデジタル化しています。 

直感的な理解として、下記の図にあるように、例えば波の繰り返しで波の上下で一番上が”1”。 波の一番下を”0”と決めれば、0、0、1、1、1、0、・・・・デジタル信号(離散信号状態)を表すことが出来る訳です。
そして送受信間でその意味を決めておけば通信は成功します。

・各種デジタル変調

 

 

■分かりにくい?位相変調
アナログでもデジタルでもAMとFMはなんとなくイメージしやすと思われますが、電波の位相とはいったい何かと考えると分かりづらいかも知れません。
理解のポイントは13頁にある図にあるように、左に円を書き、その円周上を左に回転する点を考え、その点の位置を右にプロットします。
それを連続で行うと”波形”ができます。 そして、点の位置を角度で表したものが位相であり、半径を1とすると半周の長さがπであるので角度と長さの関係がわかります。

 

(4) 無線の特徴と課題

1)どこまで届くか分からない
無線通信は、アマチュア無線愛好家でしたら、リグと呼んでいる無線機で世界各国と通話を楽しむことができます。以前と比べると数は減っているようですが今でも通信は可能です。また音声だけでなくファクシミリ通信などのデータ通信も可能です。 またこの無線の特徴は低い周波数で波長が長いため、地球の地表を巡って一周できて相手に届くのも特徴です。
通常のデジタル業務用陸上無線機ならば出力や利用している場所の地形や建物などの要因がありますが、4km~5kmでしか届きません。しかしこの状況は中継装置がないと携帯電話も同じです。
ここで言う中継装置は電話網、CATV網、MCA網、データ通信網、レガシーの伝送網も利用できる可能性は持っていますがいずれにせよ、無線端末だけでは限られた距離しか届きません。
より遠く、どこでも通話がしたい、という要望には有線ネットワークと接続をして必要不可欠な部分だけ無線化しているわけです。 無線の課題は使用条件によって同じ機器同士でも通信距離がかなり異なる、と言うものです。 しかし、これは移動できることで解決はしやすいとも言えます。

2)フェージングとダイバーシティ
電波は発信元から受信先までの間で直接届く、つまり建物などで反射する電波も飛んできますので受信側の復調で不要な存在です。よって、理想的な条件下では直接届く電波だけ受けたいのですが、実際には、直接波に加えて、反射波・回析波というものが必ず発生してしまいます。 直接波に比べて届くまでの距離が長いですので受信側ではすでに受け取っているので次を待っているのに、同じものがまた来た、ということで良くない影響つまり、干渉を与えます。
複雑な地形や電波の利用の多い場所で電波の飛び交っている場所ではさらにこの干渉によって通信品質が落ちざるを得ません。 これは昔のアナログTVでゴーストと言うものをイメージしたら理解しやすいと思われます。 ちなみにこの遅れで悪影響を受ける状態を電波のマルチパスによるフェージングといいます。(*)
 尚、砂漠などまったく建物が無いような場所ならどうかと思われますが、地表に跳ね返る反射波があるのでマルチパスが発生しています。
理想的な電波環境は、電波暗室という電波吸収素材が部屋中に敷き詰められた場所ですが、テストしか使われません。
遅れてくる電波は正規の通信に悪い影響を与えます。 この軽減の為に、ダイバーシティという技術があります。

対策のひとつとしてアンテナの工夫があります。
携帯電話が利用する周波数帯域では波長が短いために少し携帯端末を動かすと受信レベルが変わるためフェージングの影響を受けやすいです。
よって、ダイバーシティとは複数のアンテナを使って状況のよい方の信号を選択するという技術です。
またCDMAで時間的に散らばった信号のパルスのうちおなじものを集めて受信するという、Rake受信もフェージング対策に利用しています。

またそれでも誤って受信する場合がありますが、それをFEC(Forward Error Correction)という技術でデータの訂正をしております。